ブラジル情報ブラジルに関する基礎知識
1-ポルトガル人によるブラジルの発見（1484−1497）
15世紀から16世紀において、人口がかろうじて百万人に達したイベリア半島の王国ポルトガルは、大西洋とカスティリア（現在のスペインの一部）との間に位置していた。ムーア人の征服に対抗する数年の戦争が終結し、ポルトガル人の関心は次第に、航海による海外発展へと移っていった。スペイン人が西回りで東洋への航路を探し求めていたのに対し、ポルトガル人はいわゆる「南回り」と呼ばれる、アフリカの海岸を下るルートを選んだ。バスコ・ダ・ガマ率いる船団は喜望峰に1487年に到達し、インド洋を渡り極東への航路を1497年発見した。
1494年に締結されたトルデシーリャス条約により、スペインとポルトガルの新大陸の所有をめぐる問題は、カーボ・ベルデ島の西370レグアを起点とした想定線の東方をポルトガルが、西方をスペインが所有することで解決した。この想定線は、北極から南極に向かって南米大陸の東方を縦断しており、ブラジルの最初の国境を形成している。しかし、ブラジルがペドロ・アルヴァレス・カブラルによって正式に発見されたのは、この条約締結から６年後の1500年になってからであった。
2-最初の植民（1535年−1549年）
カブラルのブラジル発見により、すぐに他のポルトガル人もブラジルへの探検を試みるようになった。この探検による一番の収穫は、「パウ−ブラジル（pau-brasil）」と呼ばれる、赤や紫の染料の原木を発見したことで、後にこの原木の名がブラジルの国名となる。1530年になってようやく、家畜や作物、種などを携えた最初の組織的な植民団が派遣され、本格的な移民が始まった。そして、ブラジル東北部に住んでいた小数民族も統合されていった。1532年、現在のサン・パウロ州の海岸にあるサン・ビセンテが、続いて1549年には、後に総督府が置かれたサルヴァドールが建設された。その頃のブラジルには原住民であるインディオの種族が分散して住んでいた。温厚で友好的な部族もあったが、特に奥地には、凶暴で好戦的な種族がいた。
植民化が進むにつれ、行政機構の設定が必要となってきた。その第一段階として、ポルトガル王室は16世紀半ばに、カピタニアと呼ばれる14の世襲の行政区を定めた。カピタニアのいくつかはポルトガル本国の国土よりも大きなものであった。「donatarios」と呼ばれる領主には、自分の領地の防衛と開発が義務付けられていた。このカピタニア制度は長く続き、近代ブラジルの基本的な領土区分及び政治基盤に影響を及ぼしている。
3-植民地時代
現在のペルナンブッコ州に当たる地域は多湿で肥沃な海岸地帯であり、砂糖の栽培に適していた上に、ポルトガルと西アフリカや東洋の間を航海していた帆船の寄港先として都合のよい港があった。砂糖きびの苗や栽培技術はマデイラ島からブラジルにもたらされ、砂糖プランテーションの労働力として輸入された西アフリカからの奴隷に基づいた三角貿易は、すぐに発展した。そして生産された砂糖は、需要が増加し、既存の生産地からの供給だけでは間に合わなくなっていたヨーロッパ市場へ輸出された。
4-スペインとポルトガルの統合（1580年−1640年）
1578年にポルトガルのセバスチアン王が逝去した後、スペインのフェリペ２世がポルトガル王を兼ねたことで、ブラジルの開発は中断される。こうして1580年から1640年までポルトガルはスペイン王の下に置かれ、南米大陸は全てヒスパニック圏となった。しかし、皮肉にもこの60年間の統合期間により、南米におけるポルトガルとスペインの植民地の境界が弱くなり、ポルトガル人やブラジル人が境界を超えて奥地へ浸透していくことができたのである。
この探検・開発の主要な出発点は、今のサン・パウロ州海岸沿いのサン・ビセンテのカピタニアであった。そして、開拓者達は奥地へと境界を超えて進んでいった。この「バンデイラ（Bandeira）」で知られる探検の目的の一つは、奴隷となる原住民インディオを捕えることであった。探検隊、すなわち「バンデイランテス（Bandeirantes）」は森を切り開き、険しい山を登り、奥地の高原まで進んでいき、イエズス会の伝道区からインディオを連れてきたりした。この様にして、バンデイランテスはいつの間にか、ブラジル植民地の領土を独立当時のものにまで拡張していったのである。
5-領土拡大（1567年代）
1640年、ジョン４世の下、ポルトガルはスペインから再び分離・独立したが、それまでにトルデシーリャス条約の境界線の西方に進出して獲得した土地をスペインに返還することを拒んだ。17世紀後半に起こった主な出来事として24年間にわたりブラジル東北部を占領してきたオランダ人の撤退や、ブラジルの砂糖経済の弱体化などが挙げられる。この砂糖生産の下落により、砂糖栽培地域を離れ、未開発地域の探検や占有に乗り出す者も出てきた。
6-金の発見（1690年−1800年）
これらの探検・開発による最も重要な成果は金鉱の発見である。このゴールドラッシュで何千もの人が海岸のプランテーションから奥地へ押し寄せたが、同時にポルトガル本国からの新たな移民も誘引した。また、これらの鉱山開発地区や現在のミナス・ジェライス州に新たに出現した町などに肉や皮革製品を供給するため、奥地で牧畜が発展した。1700年から1800年にかけて、同地域から約千トンの金と３百万カラットのダイヤが採掘されている。
7-コーヒー
金とダイヤのブームも、かつての砂糖ブームと同様にやがて衰退し、新たな収入源としてコーヒーが台頭する。金やダイヤが人々をペルナンブッコやバイーアから、より南方のミナス・ジェライスへひきつけた様に、コーヒー栽培の拡大は更に南の未開の地へ植民を誘引した。
コーヒーは18世紀にフランス領ギアナから初めてブラジルにもたらされた。初期のコーヒー・プランテーションは、奴隷による労働力が豊富にあったリオ・デ・ジャネイロの奥地にあったが、19世紀後半の奴隷制の廃止及びヨーロッパからサン・パウロ州への移民の流入などにより、コーヒー栽培は土壌や気候、高度などがより好条件であるブラジル南部へと広がっていった。その結果、ブラジルは世界最大のコーヒー生産国へと成長していったのである。
18世紀後半でその他に注目すべきことは、植民地政府の移転である。200年以上拠点としていたサルヴァドールから、ミナス・ジェライス州へ通ずる主要幹線を押さえ、しかもブラジル南部の人口増加地域により近いリオ・デ・ジャネイロに移ったのであった。
1-ポルトガル王室のブラジルへの移転（1808年−1821年）
1808年にナポレオン軍がポルトガルに侵略したことで、ポルトガル王と王室はリオ・デ・ジャネイロに移り、そこに1821年まで留まった。王室が14年間にわたりブラジルに中央政府を置いたことは、結果的にブラジルの独立を早めることになった。1815年ナポレオン支配は終結したが国王ジョアン６世はリオ・デ・ジャネイロに残り続けた。国王は６年後の1821年にリスボンに帰還するが、王子を総督摂政としてリオに残した。
2-独立宣言（1822年）
この若き王子の心はブラジル独立へと傾いていった。国王がポルトガルに帰還してから約１年後の1822年９月７日、王子は「帝国」としてブラジルの独立を宣言し、同年12月１日には、自らをドン・ペドロ１世として正式に皇帝の地位についた。南米大陸におけるスペイン植民地の独立抗争が、かなり激しいものであった（これにより南米のスペイン植民地は18の共和国に分かれた）のに対し、ブラジルの独立紛争は、イギリスが間に入ったこともあり、ほとんど交渉のみで解決している。
1-ペドロ１世（1822年−1831年）
独立後のブラジルの初代皇帝ドン・ペドロ１世は卓越した人物であった。彼は1824年ブラジルに、また２年後にはポルトガルにも、帝王神権のタブーを破る、当時としては極めて進歩的な憲法を発布し、19世紀における政治的及び社会的発展を推し進めた。
2-ペドロ２世（1831年−1889年）
父と違ってペドロ２世は厳格で、穏やかな学者肌の君主であった。半世紀に及ぶ彼の統治下、ブラジルは政治的にも文化的にも成熟し、また広大な国土の統一が確固たるものになった。政治及び社会制度は平和的に進歩し、確立された。力のある行政府が設立され、段階的に奴隷開放が行なわれ、1888年に完全に廃止された。ヨーロッパ移民は積極的に受け入れられ、社会福祉計画も全国規模で計画された。
1-帝政の終焉：奴隷制の廃止（1888年）
1888年５月13日、労働システムとしての奴隷制が実質的に崩壊していること、加えて、奴隷開放を要求する世論の声がますます強くなってきたことにより、ついに王女は「黄金の法律」と呼ばれる、ブラジルの奴隷制の廃止の法律に署名した。この「黄金の法律」の執行は奴隷所有者である地主階級を没落、離反させ、急速に君主制の政治的基盤を揺るがすことになった。
当時の国の指導者達は、新体制である共和制に賛同し、協力した。その中には、当時ブラジルで最も卓越した政治家のリオ・ブランコ男爵がいる。彼の智恵と外交手腕により、協定または調停を通じて、ブラジルは主な国境紛争の大半を解決したのである。
2-連邦制と大統領制
新生共和国ブラジルは連邦制を採用したが、その基本概念は現在も維持されている。連邦制の下、帝政時代の地域区分は州に置き換えられた。議会制は大統領制に代わり、上院、下院の二院制が制定されると同時に、完全に独立した最高裁判所も設立された。また、州レベルでも中央政府と同様の政治基盤が置かれた。1930年までは、どの大統領も憲法にのっとった選挙により選ばれた。
3-新共和制（1930年−1937年）
いわゆる第一次共和制は1930年まで続いたが、同年、初めて、クーデターにより政府は転覆した。ジェトゥリオ・ヴァルガスによって指揮されたこのクーデターの主な目的は、選挙制度及び政治制度の改革である。ヴァルガスは、通算15年間政権に就いたが、問題が多い期間であった。国内経済は世界恐慌の影響を受け、特にコーヒーの価格が暴落した。また国内政治は、結果として生じた財政危機の問題だけでなく、就任10年後に起こった、ドイツのナチスやイタリアのファシストを熱望する小数の軍人と、ソ連の共産主義の信奉者の間の衝突問題などに脅かされていた。
4-権威と変化
1934年、ヴァルガス体制が確かなものとなった後、参政権を女性にまで広げた新憲法が発布された。第二次世界大戦が始まり、1942年8月、ブラジルは日独伊の枢軸国に対し宣戦を布告し、２万５千人の強力な遠征軍を、アメリカ合衆国第５連隊の従属軍として、イタリアへ派遣した。ブラジルはアメリカ大陸ではアメリカ合衆国、カナダを除いて、ヨーロッパの戦場に軍隊を派遣した唯一の国であった。
1-近代ブラジル
ヨーロッパでの戦争が終結し、ヴァルガス大統領は退陣を迫られ、後継者をめぐる選挙が行なわれた。15年ぶりに選挙が行なわれ、戦時中ヴァルガス政権の陸軍大臣であったエウリコ・ガスパル・ドゥトラ将軍が過半数の支持を受けて当選した。1946年には憲法制定議会により新しい民主憲法が承認され、1967年までその効力は続いた。
1956年から1961年までの５年間は、ジュセリーノ・クビチェック大統領の下、経済は拡大し続けた。同大統領は、新首都ブラジリアの設立者でもある。彼の次にはジャニオ・クアドロス大統領が続いたが、１年足らずで辞任してしまう。クアドロス政権の副大統領ジョアン・ゴラールの政権下、インフレの急騰や左派と右派の政治的対立により、２年半にわたる政情不安や社会混乱、及び経済危機が生じた。その後、ゴラール大統領は極左派と結びつき、それを懸念した軍隊による1964年3月31日のクーデターにより、ゴラール政権は倒れた。
2-1964年革命
1964年から1985年にかけては軍政が敷かれたが、1979年以降はその政治的圧力は徐々に弱めらていった。この期間に大統領になった５人は全て軍人であった。反共産主義のうねりの中、政権に就いた初代大統領カステロ・ブランコは、ブラジルの政治及び経済を安定させるため、必要な政府の権限と体制を掌握することを目的として、広範な憲法改正を行なった。次期政権以降の15年間、すなわち1968年から1983年までには、いくつかの軍政令（事実上の大統領令）が打ち出された。これらにより、多くの個人と集団の権利が奪われ、団体交渉は排除され、ストライキは違法となり、労働者階級の運動は制限された。
1967年から1974年までは、ブラジルは世界でも高い経済成長を果たし、ＧＤＰの実質成長率は1973年時点で14％にも達した。1970年代半ばには、当時のエルネスト・ガイゼル大統領が民主体制への漸進的復帰に向けての「政治的圧力の緩和」を約束した。1979年に就任したジョアン・バチスタ・フィゲイレード大統領も「政治公開（Abertura ）」路線を推進し、廃止されていた様々な政治的権利の回復に努め、国外追放となっていた多くの人に特赦を与えた。この年はまた、再民主化に対する国民の要望が高まった年でもある。フィゲイレード大統領の下、政治公開への路線は着実に進められ、1982年には州知事の直接選挙が17年ぶりに再開された。
3-再民主化（1985年−1989年）
1984年、新大統領の選出については、「今や直接選挙である」という声が全国規模で高まった。1985年１月、タンクレード・デ・アルメイダ・ネーヴェス候補が選挙人団による選挙で大統領に選ばれた。しかし、ネーヴェス候補は1985年３月14日の大統領就任式前夜、数カ月わずらっていた病気のため急きょ入院し、その間副大統領ジョゼ・サルネイが大統領代行となり、そのまま大統領に就任した。サルネイ政権の最優先事項は、新憲法を立案する制憲議会招集ための総選挙の行なうことであった。憲法の立案にこれだけ多くの民衆の参加が見られたのはブラジル史上初めてのことである。18カ月の審議の後、1988年10月15日、新憲法が発布された。
4-選任された大統領の辞任（1989年−1992年）
1960年以降初めて行なわれた直接選挙により、フェルナンド・コロール・デ・メロが1989年11月、大統領に選任された。しかし、1992年９月29日、コロール政権内の汚職疑惑により、上院が弾劾裁判を行ない、大統領職を永久に剥奪するかどうか決定する間、同大統領は180日間の職務停止を下院により命じられる。1992年12月29日、上院が同大統領の汚職の嫌疑につき審議を開始した数分後に、コロール大統領は辞任したが、上院は彼を告発することを大多数で可決した。３時間後、副大統領イタマール・フランコがコロールの２年間の残務期間終了まで大統領職に就くこととなった。
1994年１月１日、フェルナンド・エンリケ・カルドーゾ氏がブラジル連邦共和国大統領に就任した。